『 We'll lose us 』
※原作沿いキラ復活後のL視点です。


いつものように捜査本部のデータベースを操作している後ろ姿を眺める。立ち姿は毅然としているがデスクワークでは頬杖を付く癖があり、今もそうして少し前傾することで薄茶の髪で普段は隠れているうなじが覗いている。
じっと見つめる私に気づいた夜神月が椅子ごとくるりと振り返った。眉間に皺を寄せている。
「物凄く視線を感じるんだけれど…」
「月くんはいつも格好良いので思わず熱い視線を注いでしまいました」
夜神月は首を傾げ、それから少し口の端を上げた。監禁後暫くはなりをひそめていた酷薄な表情。それが解けるように蠱惑的な微笑みに変化する。
「見惚れた?」
「はい」
私が彼に望んでいたものは一体何だったのだろう?
はじめて存在を知ったときから彼は単なる一介の高校生ではあり得ない異様さを持っていた。これは一般的な基準から逸脱した能力と精神構造を保持しているということで、私と比較する必要は全くないがそういう意味合いで括るならば私と彼は近しい存在と言えよう。
キラ。
確たる証拠がないだけで信じて疑わなかった。彼は彼であるに相応しく、そうであるべきだとすら思っていた。
…その属性が失われたと気づいたときの恐ろしいまでの虚脱感。
しかし、時に私を喜ばせ驚かせる人格の素地はキラである可能性の有無に寄らず変わらずに彼のなかに存在する。状況を己も含めた形で客観的に観る冷静さとふいに駆られる激情の振幅。

返事をしたきりそのまま視線を逸らすでもない私に焦れた夜神月が椅子から立ち上がり私に近づいてきた。
「どうしたんだ、竜崎?」
いつもの甘く優しい声で話し掛ける。
「何がですか?」
私の問い返しに彼は軽く眉を上げ、困ったように所在なさげに私の手元に散らばったプレッツェルを一本摘むと自分の口に運ぶ。半分は口内に消え、ぱきんと折れた残りを差し出すから私は当然のように口を開けて待つ。
そう、私はいつでも待つだけなのだ。彼が現れ、失われ、再び現れた間に一体何ができたというのだろう。
そしてあの優しい彼は入れ違いに失われてしまった。その想いはキラたる彼を捕捉した喜びに水を差す。あの彼もまた夜神月、私の求める存在だったのだ。
「今日の竜崎は、本当に変だな」
差し出されたプレッツェルは私の口に届く前に再び夜神月の口元に戻っていった。さくさくと音を立てて咀嚼する姿を見ていたら、夜神月は今度こそ本当に明らかに怪訝な顔をしたようだ。どうも視界が歪んでよく見えず、袖を引っ張り目を擦ると下ろした布地が湿っていて内心酷く動揺した。
「本当にどうしたんだよこんなことでそんな」
少し焦った様子で夜神月が私の口にチョコレートをひとつ放り込んだ。
いつもよりほんの少し塩味の強いプラリネに唾液が引き出され口内が潤う。甘さに宥められほろ苦さに刺激され感情を持て余しているというのに、更にまるで泣いている子どもをあやすように優しく顔を寄せ微笑まれては本当に困る。私としたことがどうしたらよいのかまるで分からない。
私は時間稼ぎにゆっくりとチョコレートを溶かし味わってから、やっとのことで口を開く。
「…これも、私です」
夜神月がそうしている以上、私もそう振る舞うべきだ。
だから何事もないように、いつものように可能な限り飄々と私はティーカップに手を伸ばす。


終わり



2009/01/23  Author えでぃ







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だめっこ動物園:えでぃ様



いきなりお声をかけてしまったにも関わらず、快く依頼を受けてくださって本当にありがとうございます!!
なんて綺麗な空気が漂う作品!! 最後の、Lの台詞が印象的でした・・・・
切ない現実を突きつけられつつ、そんなふたりに萌えました!!素敵な作品をありがとうございます〜〜


実はもう一つ作品を頂きましたvこちらは月とミサのお話です。

『Vanilla』