※この作品はシニネタパラレルです。作品の時制すらバラバラで大変わかりにくくなってます。ご注意ください。
注意:前回の話からは直接繋がっていません
まぼろし
その日は珍しく竜崎の体調が良かった。
「少し出ませんか」そう言った竜崎の顔色は良く、僕は安堵し頷いた。
季節は晩秋。
二人並んで川沿いを歩いた。
風はほとんど無く、どこかで野焼きでもしたのか燻る様な匂いがほのかに漂う。道には真っ赤に紅葉したもみじの葉が散って落ちていた。
道端の紅葉した並木に目を細め、壮観な眺めに見入る。
「秋は一年のなかで一番趣がある。僕は好きだな」
「そうですか?」
「意外だな。竜崎先生は秋の良さを判ってはくれないのですか。」
「秋は没落を連想するのであまり好きではありません。」
「どこか物悲しくて情緒があるんだろ」
「そこが嫌です」
「そこが良いんだよ」
今日に限って竜崎はよく喋る。いつもは机に向かって無言で執筆しているので会話なんかほとんど無い。
外は眩しいほどの秋晴れで空が高く感じた。
鱗のような雲、筋のような雲に夕焼けが差し燃えるようなオレンジ色をしている。
竜崎と並んで歩く、この瞬間がたまらなく愛おしかった。
あとどれくらい彼の姿を見ていられるだろうか。
彼の話す一語一句たりとも聞き逃したくない。僅かな表情の変化さえ目が離せない。
不意に胸が熱くなった。
彼は不治の病に冒されている。
しかしこうやって歩く姿は健常者と何ら変わりは無い。
何故彼が
何度も繰り返した言葉を僕は飲み込んだ。
どのくらい歩いた頃だろうか。
「ねぇ竜崎」
「・・・なんですか」
「あそこみて。似顔絵を描いているんだって」
大きなイチョウの木の下に『似顔絵描きます』のカンペ。
客を待つのはみすぼらしい姿の初老の男だ。小さくてぼろぼろの椅子に座っていた。しかし立ち止まる者はいない。
「竜崎、描いてもらえば?」
「遠慮します冗談じゃありません」
「かっこよく描いてもらえるかもしれないよ」
「嫌味ですか」
「こんな機会もうないかもしれないからさ。描いてもらおうよ。」
竜崎がこういった類の事が苦手なのは判っている。でも僕のわがままを断れない事もわかっていた。
半ば強引に連れて行く僕に竜崎は終始不機嫌だった。
「いい加減その不細工な顔やめろよ」
「・・・・」
そっぽを向いて親指の爪をガリガリ噛み始める竜崎。不機嫌を隠さないあからさまな様子に僕は戸惑った。
「すみません、こいつちょっと人見知りなんです」
「いいですよ、そのままで」
老人は気にする様子も無くスラスラと画用紙に鉛筆を走らせる。
僕は職人の腕に目を奪われた。
興味が無さそうだった竜崎も、時折老人の方をちらと伺っている。
十分もしないうちに絵は描きあがった。
「すごい・・・」
短時間で仕上げられた物とは思えない絵が老人によって手渡された。
「老人の娯楽でお恥ずかしいですが」
「とんでもないです、もしかして昔は画家を目差していられたのでは?」
娯楽で描いているような絵じゃない事は素人目でもわかった。
すると老人は顔をくしゃくしゃにして微笑んだ。「昔の話です」そう笑う老人の顔はどこか憂いを帯びていた。
「ちょっと、夜神君。私にも見せてください」
「ああ、ごめん」
「・・・・・・」
「どう竜崎」
「私は、こんなに猫背ではありません。」
竜崎の反応に僕は思わず噴出した。
「よかったじゃないか竜崎・・・・」
「笑うほど似てますか?」
「僕も描いてもらうかな」
「私は帰りますよ」
「ごめんごめん。」
僕らのやりとりを老人はにこやかに眺めていた。
また今度、と老人に約束をして僕らはその場を去った。
これが本当に最後になってしまうなんて、このときは考えもしなかった。
竜崎の容態が悪化したのは、その後一ヶ月もしない頃だった。
++++
「懐かしいな・・・・」
五十年もの歳月の後、荷物の整理をしていたらひょっこり竜崎の絵が出てきた。紙はすっかり変色し黄ばんでいたが竜崎の姿をきちんと留めていた。
もう今では声すら思い出せない彼。
しかしあの時見た燃えるような夕焼け空は今でも忘れることはできない。
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忘れられない光景ってありますよね^^; 駄文ですみません。雰囲気だけで読んでください><
力不足です撃沈(爆